Each day is a little life: every waking and rising a little birth, every fresh morning a little youth, every going to rest and sleep a little death. - Arthur Schopenhauer

2015年1月26日月曜日

読書『ネット社会の「正義」とは何か 集合知と新しい民主主義』西垣通著

ネット社会の「正義」とは何か 集合知と新しい民主主義 (選書)

元東大情報学環教授・西垣通先生の新著を読みました。
学部生時代、政治哲学を学び、卒論も「正義」をテーマに書いた身としては読まざるをえないテーマ。
それも基礎情報学が専門の西垣先生が、あえて公共哲学で鉄板のテーマである「社会正義」について論じられる、これはそそられますね。

今著の位置づけとしては、『集合知とは何か - ネット時代の「知」のゆくえ 』の続編にあたるそうで、中心に据えられる概念としては“集合知”(wisdom of crowds)。(スロウィツキーの『「みんなの意見」は案外正しい』なども参照されてます。


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西垣 通

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公共性の高い問題に果たして、集合知は有益なのだろうか。
上記の『みんなの意見は案外正しい』などは群衆の知恵が一個人よりも有能な解を導き出すことを多くの例を交えながら説得的に論じていると一定の評価を与えながらも、まだ読み物の域を出ていないという。

そこでやはり引き合いに出されるのが東浩紀さんの『一般意志2.0』。
今著では終始一貫して、この本が随所で批判的に検討されていく。

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東 浩紀

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他多数の批判と同様に、この本で展開される提案は技術決定論よりなのではないか、無意識の集合をアルゴリズムによって集積するとはいっても、そのアルゴリズムを組むのは人間である。テクノロジーに盲信しているのではないか、という基礎情報学の観点からの批判が加えられる。

そこで集合知の実践可能性をうかがう前に、本の前半では自由主義、功利主義、共同体主義という公共哲学のベーシックな思想潮流の整理が行われる。
筆頭テクストとなるのはかの有名なサンデルの『これからの「正義」の話をしよう』である。
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リベラル=コミュニタリアン論争という近代政治思想の分野で滔々と闘わせ続けられてきた問題も、実は両者の間に結節点を見出すことができるのではないかというのが西垣先生の主張。
自由主義の制約条件を念頭におきつつ、功利主義の効用関数にもとづいて公共的正義のあり方を検討するものである。共同体主義の共通善はそこで、人びとの道徳観にもとづく判断として、非明示的に作用することになる。
とまあ全体を通じて、理系/文系問わず楽しめる内容になっているのではないでしょうか。

より深く政治思想や正義について専門知識を学びたい人にとっては、僕の学部生時代の指導教官の押村先生が著された『国際政治思想―生存・秩序・正義』がオススメです。

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