Each day is a little life: every waking and rising a little birth, every fresh morning a little youth, every going to rest and sleep a little death. - Arthur Schopenhauer

2013年9月28日土曜日

読書『普遍の再生』井上達夫著

普遍の再生

東大院・法学研究科教授、井上達夫先生の『普遍の再生』を読みました。
井上先生の本はちょこちょこ読んでいて、2ヶ月くらい前にこのブログでも『世界正義論』を紹介しました。
先生の専門は法哲学で、僕の専門とは少し違うのですが、やはり哲学・思想はしっかり押さえておかないと土台がグラグラな理論の陥穽にハマりやすいので。

今著は先に刊行された『現代の貧困』という本の姉妹本だそうで、「現実に対する批判的変革原理としてリベラリズムを再定位することを企てた」一連の著作だそうです。
現代の貧困――リベラリズムの日本社会論 (岩波現代文庫)現代の貧困―リベラリズムの日本社会論
井上 達夫

岩波書店
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前著では天皇制・会社主義・55年体制の遺産という「戦後日本の三種の神器」を主な主題に据え、今著ではナショナリズム、欧米中心主義という知的政治的覇権、それに抗うアジア的価値観、そして民主的答責性を掘り崩すさまざまな超国家的あるいは脱国家的な権力体を主な論的に議論を進めていきます。
あとがきに本著を書くドライブとなった動機の要諦があったので、ここでも
現代世界の諸力・諸傾向に対して、リベラリズムの基底にある「普遍への企て」を擁護し、他者支配の合理化装置ではなく批判的自己変革原理として普遍を再生させること、これが本書の狙いである。
と、この引用はあとがきから引いたものですが、<序文 普遍の死に抗して>にも、強烈な意志が垣間見えます。「自己の恣意の絶えざる批判的再吟味を迫る理念として普遍を探求する知性のみが、権力の恣意を批判的に克服する地平を開くことができる」本書を通じて、種々のトピックが語られるわけですが、基本的に伏在しているテーゼは今しがた引用した一文に集約されると思います。

あとやはり、リベラリズムとナショナリズムの複雑な絡み合いに対する思想的・理論的理解への一助としてはタミールの『リベラルなナショナリズムとは』は必読かと思います。
リベラルなナショナリズムとはリベラルなナショナリズムとは
ヤエル タミール,Yael Tamir,押村 高,森分 大輔,高橋 愛子,森 達也

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個人的にすごく興味深かった箇所としては《第7章 普遍の再生―歴史的文脈主義から内発的普遍主義》の<1. あるシュムポシオン>でエッセイ調で綴られていた、井上先生がハーバードに留学していたときの回想記。(ちなみに東大のオンライン・コースの連続講義「正義を問い直す」でも少し、この時の話に触れてらっしゃいました)

ジョン・ロールズ

ボストンの日本料理屋でジョン・ロールズ、トーマス・スキャンロン、そして岩田靖夫教授と懐石料理を食べていた時、井上先生がロールズにこう訊ねたそうです。
"What is the best way to kill your theory?"
すると、ロールズは笑みを浮かべながらこう答えたそうです。
"You can not kill my theory. It will just die out" 
あとは一応、備忘録として歴史的文脈主義から脱却し、内発的普遍主義を唱道する根拠というか、視点を4つメモしておきます。 

①人権と民主主義という普遍的原理は覇権的に捏造された差異を解体し、それが隠蔽抑圧してきた差異を解放するとともに、この差異の葛藤の公正な包容を図る。
②普遍主義的正義理念が含意する公共的正当化要請は、普遍的人権原理と相俟って、文化的差異の公正な相互承認の枠組を構成する。
③法・言語・歴史など人間の実践の解釈は過去の事実によって一義的に確定されないからこそ、創造的解釈の比較査定のために普遍的評価原理が必要である。かかる解釈は歴史的文脈に依存しつつその規範的意義の最適化を図る。
④普遍志向は基礎付け主義を排した対話法的正当化理論と結合する。両者の統合は正当化を論議の文脈の差異に相関させる一方、正当化実践の論議開放性を保障する。

普遍の追求は文脈を歪曲する覇権を解体し、多様な文脈の相互承認を保障し、文脈をよりよく意義付け、そして文脈を開放するために不可欠なのである。

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